戦いは続く。
森の中に住んでいる。
家なんていうものは、私たちが雨を凌ぐために、風を凌ぐために、あるいは寒さや暑さを凌ぐために作った小さな枠組みに過ぎない。
その境界線を境界線だと認識しているのは我々人間だけだ。
つまり、虫にとっては家があろうとなかろうと森の中は森の中なのである。
森の中に住んでいる。
ということは、常に虫たちとの戦いだ。彼らは自由に生息する。私は自分の家を主張する。意思疎通することはこれまでもこれからもない。私は忌避剤を家の周りに散布し、それでも侵入してくる彼らに怯えるしかない。
空軍。彼らの機動力は計り知れない。屋根裏とつながっている空調の吹き出し口から常に侵入の機をうっている蜂たちの速さに、のろい人間である私は古代兵器うちわ、新聞紙などでは到底太刀打ちできない。化学兵器の使用をやむなくされる。完全に条約違反である。
陸軍。主にムカデとゲジゲジである。翔ばない、という点で空軍に劣るかと思われる彼らの機動力であるが、彼らには要塞が通用しない。扉を閉めようが窓を閉めようがそんじゃそこらの密封力じゃ彼らの侵入、または脱出を阻むことはできない。
さらに陸軍の力は夜間に発揮される。飛翔という最高機動力を持つ空軍は、その速さゆえに羽音という欠点を持っているが、陸軍の移動にはほとんど音が伴わない。侵入し、近づいて来ていても我々は視認しない限り気付くことができない。
そんな両者の利点をあわせもった陸空ハイブリッド最凶モンスター。それが、ゴキブリである。
奴らは走る。飛べば時速40㎞の速さを誇るオオスズメバチも地に足をつければ止まっているも同然である。しかし、奴らは走る。陸軍顔負けのスピードで走る。
奴らは翔ぶ。あまりのスピードで走るからついつい忘れがちだが、奴らには立派な羽がついている。走っているからこそ、どのタイミングで離陸するのかわからない。ひとたび離陸してしまえば、全速力でこちらに飛んでくる。抗う術はない。
私たちは無力だ。彼らを前にすると丸腰では何もすることができない。せいぜい悲鳴を上げながら顔を伏せるくらいしかできないのだ。全部屋に各殺虫剤を常備していても、実際に対峙したとき的確な武器を選んで直接吹きかけるのは至難の業である。リアルの判断力立ち回りエイム力が求められる。
戦いは続く。